来るべきものの予感 | The premonition of things unknown
2021
TERRADA ART AWARD 2021
ここ(会場)がまだ海の中だった頃。一人の漁師が光り輝く面を引き上げた。それは牛頭天王の面であったことからこの地は天王洲と呼ばれる様になったという。1798 年には一匹の鯨が打ち上げられ、それを祀る鯨塚が現在も残されている。その後、黒船に対する海防強化のため第四台場として埋め立てられた天王洲は、海から地へと拡張された。現在、羽田空港新飛行ルートとして会場の頭上450m を航空機が通過している。太平洋の彼方にいる一匹の鯨の鳴き声から、頭上の航空機が発する轟音まで、繰り返される音がもたらすものとは。海の向こうからやってくる何かによって空間のレイヤーを変容させてきたこの地で、その起源を考察し未来の音を発してみよう。
正面にはクジラと人間の歴史を考察した映像が流れている。左手にはそれを一つの絵巻物にしたドローイングを、スペクトログラムによって音へと変換し、会場外にある東京湾に設置した海中スピーカーに転送することで、海の中に音を流している。また、右手の映像は、反対に海中マイクで拾った音を会場に転送した映像が流れている。クジラは3000km 先の相手と交流が確認されており、東京湾においても数年ごとに迷いクジラが発見されていることから、クジラがその音を聞く可能性があることを推定している。そのため音にはクジラの鳴き声も合成されている。
海の中で人工的に音を流す実験として、2019 年Nature に掲載された研究で、朽ちかけた珊瑚礁に、活きた珊瑚礁の音を流すことによって、寄り付かなくなっていた魚が活きていると錯覚し、生態系が活性化することによって珊瑚礁が約150%蘇生したという報告がある。
展覧会が開催された当時、会場近くの羽田空港で開始された新飛行ルートによって、会場の450m上空を飛行機が通過し、轟音が鳴り響き始めた時期であった。繰り返される轟音が与える生態系(そして人間)への変化を、海中のサウンドスケープの可視化によって考察した。

久保は初期衝動をきっかけに情報探索の旅をスタートし偶然やノイズを巧妙に取り入 れ、注意深く取捨選択を重ねながら連鎖的にリサーチのスコープを変更し、最適化で は作り出せない探索経路を経て物語を作り出す。物語は展示空間内外に設置されたさ まざまな装置に分解、展開されることによって、鑑賞者はさまざまな視点で作品を鑑 賞し、関係性を読み解くことが要求されるが、複雑なネットワークが作り出す高次元 の情報を身体が認知できる状態に低次元化し、鑑賞可能な作品に変換している点は見 事としか言いようがない。本プロジェクトのためだけに入念なリサーチを行い、高度 な実装を伴う野心的な挑戦を実現した久保の今後の活動に期待を込めて賞を与えた
 
真鍋大度
Rhizomatiks ファウンダー、アーティスト、DJ
Microphone and speaker in the sea connected to the gallery by internet
Cuts from the video
Installation view